学校教育では、アクティブラーニングが推奨されるようになり、それに伴って授業でグループディスカッションを行う機会が増えたと思います。

 

ディスカッションを通しての学習のメリットは、受け身にならず学習活動に参加しやすい、色んな意見を通して新しい学びが得られる、協力して正解のない問題を解決していく経験が得られる、などが挙げられます。

しかし、これまでの授業のように聞いてインプットする学習から、グループディスカッションのような積極的に意見を出し合いながら学ぶアウトプットの学習スタイルへシフトするのは簡単ではありません。

教える側であれば、ディスカッションでなかなか発言が出てこなかったり、ファシリテーションがなかなか上手く出来なくて苦労した経験もあるかもしれません。

そこで今回は、ファシリテーターも学習者も充実したディスカッションが出来るようにするための方法を一緒に考えていきましょう。

学習環境のシリーズ第一弾・第二弾の記事を読みたい方は下記の記事をご確認ください。

もくじ
1: ディスカッションが活発にならない理由
2: 心理的安全が保たれた空間でないと、ディスカッションは活発にならない
3: 心理的安全が保たれた空間を作るには?

1: ディスカッションが活発にならない理由

まずは、ディスカッションが活発にならない理由を考えていきましょう。

この記事で挙げる要因が全てではありませんが、多くの人が直面するであろう理由を3つ挙げます。

理由1:大勢の前で話すのが恥ずかしい

まずは、自分としては意見があるのだけど、大勢の前で発言するのが恥ずかしいと感じ発言できないような状況が考えられます。

恥ずかしいと感じる理由としては、

「みんなと違う意見だったらどうしよう?」

「笑われてしまうかもしれない」

「間違った意見だったらどうしよう」

などの気持ちが働いている場合が多いでしょう。

ですが、このように感じる事は決して不自然ではなく、むしろ自分を守るための反応であり自然な感情です。

この場合、何らかの理由で「この場で発言した事が受け入れてもらえないかもしれない」と感じ、発言をためらってしまっていることが考えられます。

記事紹介: 不安を感じることの背景や乗り越え方について気になる方は下記のブログをご覧ください。

理由2:反論されるのが怖い

2つ目に考えられる理由は、自分の意見に対して反対意見を出されるのが怖いと感じていることです。

グループ内で発言しても、

「その意見には共感できない」

「その考え方間違ってる」

「私には分からないな」

と受け入れてもらえず、さらに反対意見で返されてしまうと、せっかく勇気を振り絞って発言したのに気持ちが萎えてしまいます。

発言した時に反対意見で論破されてしまったり、受け入れてもらえない経験をしてしまうと、それ以降発言するのが怖くなるのは仕方のないことだと言えます。

理由3:よく分からないテーマに対する不安

考えられる3つ目の理由は、ディスカッションをしているメンバーが話し合っているテーマについて何を話していいか分からず不安を感じていることが考えられます。

この状況は日常の些細な会話の中でも見かけられます。

例えば、ラグビーが好きな2人と、ラグビーをあまり知らない1人の3人で話をしていたとします。

ラグビー好きの2人は、ワールドカップで有名になった選手がお互いに好きであったことをきっかけに、2人で話が盛り上がりました。

しかし、もう1人はラグビーについて知らないので、何を話していいか分からず会話についていけいません。

それに気づいた2人が「ラグビーについてどう思う?」と気を利かせて話を振ってくれたとしても、知らないことについて話すのは難しく「う〜ん、、、」と言葉に詰まってしまった。

こんな場面はよくあるのではないでしょうか?

自分が知っていることや専門としていることは自信を持って話すことが出来ると思います。しかし、知らないことや知識が曖昧なことについては話すのをためらってしまいがちです。

グループディスカッションに置き換えてみると、グループで話し合うトピックについて予備知識がないと、「話し合っている話題から外れたことを言ってしまうかもしれない」と不安になるものです。

上記で挙げた3つの理由は数あるうちのいくつかだと思いますが、「安心して自分が発言出来ると感じられていない状態である」点が、共通して言えそうです。

2: 心理的安全が保たれた空間でないと、ディスカッションは活発にならない

前述のようなグループの中で発言するのをためらうような状態は、心理的安全が保たれていない状況だと考えられます。

心理的安全については、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソンが1999年に行った研究をきっかけに検証が進められてきました。

この研究では、心理的安全とは「グループメンバーが価値観を共有しており、活動環境でリスクを取ることに対して安全が保たれていると感じている環境である」と定義されており、心理的安全が保たれた職場では仕事に対する学習態度が向上することを報告しています。

心理的安全が保たれているグループの特徴としては、

1)グループメンバーが他のメンバーを排除しない
2)お互いの能力を尊重し合っている
3)メンバー同士について興味を持っている
4)メンバー同士がポジティブな交流を持っている
5)建設的に問題解決が出来る
6)新しい試みを試したりリスクを取ったりすることに対して不安がない

などが挙げられます。

先の研究でエドモンドソンが開発したチームの心理的安全を測る質問紙でも、リスクを取る上での安心や他者理解や尊重について聞いている項目が多く見られます。

このことからも、ミスに対するリスクの少なさやメンバーとの繋がり・関係性が心理的安全に大きく関わっていることが分かります。

心理的安全の観点からグループディスカッションを見てみると、グループの中で話すことが恥ずかしいと感じてしまうこと、反論を受けたり意見を否定されることに対する恐れ、的外れなことを言ってしまうかもしれない不安などは、「自分が発言したことがメンバーに受け入れられない不安」「失敗したことに対するケアやフォローがないと感じてしまう不安」の表れと捉えられます。

つまり、グループのメンバーが発言することに対して不安を感じるような状態では、お互いに発言するのをためらってしまったり、異なる意見を発する気持ちにもなれないので、なかなか議論が活発になりません。

一方で、お互いに気心知れている間柄で、ミスしてもフォローし合えたり、異なる意見でも受け入れてもらえるような関係性が出来ていると、そのグループでは様々な意見が飛び交いやすくなります。

記事紹介: 心理的安全性がチームにどのような影響を与えるのかに興味がある方はこちらをご覧ください。

3: 心理的安全が保たれた空間を作るには?

これまでの内容を踏まえると、ディスカッションをする前に心理的安全が作れるような取り組みを行ったり、メンバーの意見を受け入れる姿勢を取ることで、お互いに意見を出し合いやすい空間を作ることが出来ます。

ここからは、心理的安全が保たれたグループを作るために出来る取り組みをいくつか考えていきましょう。

1. 話し合う前にアイスブレイカーをする

アイスブレイカー(アイスブレイク、アイスブレイキングとも呼ばれています)は、直訳すると「氷を壊す」という意味ですが、これは「お互いの間にある氷を(心理的な壁)を壊して、会話をしやすくするためのアクティビティ」を指します。

知らない人が集まっていきなりディスカッションを行っても、居心地の悪さを感じて発言するのが難しいものです。これは、「個人」がただ集まっている状態であり、「機能的なグループ」になっていない状態と言えます。

社会心理学では、「機能的なグループ」とは、1)メンバー同士がお互いに活発な交流を通して支え合っていて、2)所属しているグループ内で役割があり、目指す目的を一緒に達成している実感がある、と定義されています。

つまり、アイスブレイクを通して少しでもお互いの事を知ることで居心地の良さを生み出すことに繋がり、個人の集まりからグループになることが出来ます。機能的なグループだからこそ、意見を出し合えるようになりディスカッションが活発になっていくのです。

この前提を踏まえて、短い時間でできるアイスブレイカーをいくつかご紹介します。

自己紹介

ちょっとしたことではありますが、話し合いを始める前に自己紹介をするのは、まさにアイスブレイカーです。

ここで、心理的安全の保たれた空間の特徴でもあった「お互いの違いを受け入れ合う」を踏まえて、「人とは違うけど私らしい一面」「私の面白い一面」といった事をシェアするのは1つの方法です。

他にも、雰囲気を和やかにするために「好きなことについて紹介する」といった、少しでも相手と親近感を持てるような話題についてシェアし合うと相互理解が促されます。

ざっくばらんな雰囲気で各自30秒から1分程度の自己紹介をするだけでも、その後のグループ内での話しやすさは変わってきます。

ここ最近あった小さな嬉しかったこと

制限時間を決めて、ここ最近あった小さな嬉しかったことを紹介するのも1つの方法です。

誰かの嬉しかった話は聞いている方も嬉しい気持ちになれますし、話す方も楽しく話せる物です。ちょっとした相互理解のきっかけにもなりますし、相手の話したことに対しても肯定的な態度をしたり言葉をかけたりしやすく、ポジティブなコミュニケーションを取りやすくなります。

連想ゲーム形式で好きなものを当てる

ちょっとひと工夫を入れた方法としては、誰か1人の好きな何かを連想ゲーム形式で当てるようなアイスブレイカーも考えられます。

グループの1人が親となって好きなものを紙に書いておきます。他のメンバー1人ずつ質問をしていき親は「はい」か「いいえ」で答えます。

こちらも制限時間を決めて行えばそこまで長い時間はかかりません。

アイスブレイカーをする上でのポイント

大事なポイントとしては、グループメンバーの一面をシェアしてもらったら「そうなんだ!」「いいね!」と受け入れることが大切です

アイスブレイカーの目的はお互いを知って居心地のいいグループになることですので、特定の方法にこだわる必要はなく、アイスブレイカーの中身もその都度変えていくのが好ましいです。

決してアイスブレイカーに長い時間を取る必要はなく、ディスカッションを始める前の5分間程度でも十分です。

2. アクティブリスニングのスキルを活用する

アクティブリスニングとは、積極的・能動的に相手の話を聞くためのスキルです。

活発なディスカッションには発言するスキルが大切だと思われがちですが、周りが良い聞き手であることで発言しやすい空間が作られます。

具体的なアクティブリスニングスキルは、2010年にHuerta-WongとSchoechが行った研究が参考になります。この研究では、アクティブリスニングスキルとして、

1)共感を示すように反応する
2)自己開示をする
3)ポジティブなフィードバックをする
4)相手の話した内容を要約して反応する
5)自分の感情を表に出して相手に示す
6)相手の話した内容を別の言葉で言い換える
7)ノンバーバル(非言語)コミュニケーションを多く使う
8)アイコンタクトをする
9)励ましや勇気づけの声をかける

の9つの方法を紹介しています。

このアクティブリスニングスキルを聞いているグループメンバーが使うことで、発言者が「自分の話を聞いてくれている」と感じられる空間を作ることが出来ます。

しかし、一度に9つのアクティブリスニングスキルを意識しながら会話をしたりディスカッションをするのは大変です。

そこで、「今日のディスカッションでは、聞いている人は共感を示すように相槌を打ったり反応するようにしよう」と1つのアクティブリスニングスキルを取り上げて練習するのもいいでしょう。

アクティブリスニングのスキルは他のスキル同様、1回使ったから次回以降も使えるようになるような簡単に身につくような物ではありません。

繰り返しグループディスカッションの中で使うからこそ、自然と使えるようになりますので、長い目で見て1つ1つのスキルを身につけていくように心がけることが大切です。

まとめ

グループディスカッションで活発な発言が生まれにくい背景には、グループメンバーが「この空間だと発言しにくい」と感じてしまっていることが考えられます。

そこで、自分の発言しやすいような心理的安全が保たれた空間を作ることが効果的だと考えられます。

心理的安全を高めるには、「失敗しても大丈夫」、「自分の意見が受け入れてもらえる」と感じるように、グループメンバー同士の理解を深めたり心理的な壁を取り払うような取り組み(アイスブレレイカー)や、聞き手がアクティブリスニングのスキルを使って発言しやすい環境を作ることなどが出来ます。

心理的安全が保たれた空間を作るのに必要なスキルは、ある程度時間をかけて繰り返し練習していく必要があります。

毎回ちょっとしたアイスブレイカーを行ってからディスカッションをスタートさせて、アクティブリスニングのスキルを1つ選んで練習するような取り組みを毎回行うことで、活発に意見を出し合えるようになってくると思います。

参考文献

Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative science quarterly, 44(2), 350-383.

Hogg, M. A., & Vaughan, G. M. (2018). Social psychology 8th edition. Peearson.

Huerta-Wong, J. E., & Schoech, R. (2010). Experiential learning and learning environments: The case of active listening skills. Journal of Social Work Education, 46(1), 85-101.

早川 琢也

2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究。2020年11月に博士号(Ph.D.)を取得。現在は、慶應義塾大学兼任研究員として選手の主体性を育める練習環境をテーマに研究を進める一方、NPO法人Compassionのメンバーとしてスポーツ心理学、運動学習、教育心理学などの学術的な理論や研究内容を応用して、子どもが未来に対して希望を持てる心のサポート活動も積極的に行なっている。